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こらむ・シネマ百景 第159回 "阿鼻共感"

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映画ライター 服部香穂里さんの『こらむ・シネマ百景』

 ここではないどこかに、わたしと瓜二つの第三者が生きている、パラレルワールドが存在するかもしれない。そんな誰しも思い浮かべたことがあるであろう夢想を悪夢の趣で具現化し、両者をパラレルどころかクロスさせた上に反転寸前にまでしてしまう地獄絵図が、超ブラックなユーモアを利かせて紡ぎ上げられる『アス』。極端な崇拝は差別と紙一重であると、予想だにしない切り口で炙り出してみせた『ゲット・アウト』(17)のジョーダン・ピール監督は、表舞台に突如出没した、不気味な笑顔に超人的能力を秘めた分身による侵略過程で、日陰の身ゆえの彼らの悲痛な背景にも光を当てつつ、シンパシーたっぷりにアイデンティティを肉付けしていく。常に数歩先を行く鬼才の手の中で心地よく翻弄されるうちに、観る者の立ち位置が根底から揺るがされ、スクリーンを後にしてからも、眼前に広がる光景が今までとどこか違って見えてくる、知的探求心くすぐるスリラーが誕生した。


 コアなファンの後押しでソロデビューが決まるも、絶望的なほど絶対音感が欠落したアイドル候補生と、わけあって彼女の教育係となった、笑い袋ばりに耳をつんざくケタケタ声もインパクト大のボイストレーナー。足並み揃えてひとつの目標に向かうはずが、とことんソリの合わないふたりの、六甲山からさらに奥まった山荘で合宿生活を送る恐怖の数日間を描く『みぽりん』。上達の兆しすら見せないヒロインもどきを横目に、怪しげなヒール役から一気に前面へと躍り出る"みぽりん(自称)"が、正にタイトルロールとして作品を牽引する。次々とはがされる化けの皮から覗く、驚愕の素顔に身もだえしつつ、その常軌を逸した指導の情熱に隠された、悲しき秘密も明かされていく。呆気にとられるまさかの幕切れに、鮮烈なデビューを飾った松本大樹監督の、何かと世間を騒がす当世アイドル事情へのシニカルな考察も見え隠れする、神戸発の意欲作である。


 平和主義者(≒へたれ)の王に代わり、奪われた領土を大国から取り戻すべく民衆を鼓舞する影武者と、1年前の傷で得た病を公表せぬまま、日に日にやせ細る身体で彼を密かに操る重臣。さらに、外見はそっくりだが中身は対照的なふたりの間で揺れるその妻との、スリリングな三角関係の行方を追う『SHADOW/影武者』。心の機微を見つめる秀逸な小品を手掛ける一方、膨大な予算を投じた絢爛豪華な大作で、よくも悪くも度肝を抜いてきたチャン・イーモウ監督が、モノクロともカラーとも違う、極限まで色彩を削ぎ落す水墨画風の斬新な映像世界を構築。自我を抹消する道を選んだ名もなき男や、信頼していたはずの部下や愛妻への疑念に囚われる知略家らの複雑な心情を、繊細な濃淡の際立つ映像美とともに映し出す。ミュージカル映画のイメージも強い傘を攻守両用の武器にアレンジした、優雅さと野性味が溶け合うアクションシーンに熱狂しつつ、男女の様々な想いが目まぐるしく交錯する怒濤の展開の中で、ひとの心の深淵へと誘われる会心作だ。


 はかなくも濃密な青春の光と影を、不意に岐路に立たされてしまう多感な少年の視点で瑞々しく綴る『僕はイエス様が嫌い』。ひとりきりになった祖母と暮らすため、雪深いミッション系の学校に転校してきた小5のユラは、自分にだけ見えるらしい超ミニサイズの"イエス様"の起こすささやかな奇跡にほっこりしつつ、気の合う親友にも恵まれるが、楽しい時間は長くは続かない。信仰心の有無を問わず、等しく襲いかかる厄災を前に、ある者は無理にでも希望を見出し、ある者はひたすら悲嘆にくれ、ある者は自分や誰かを責め続ける。本作が初長篇となる96年生まれの奥山大史監督は、歳月が過ぎれば想い出に変わるかもしれない悲劇にも、安易な感傷を許さず、その渦中の深くまで飛び込むことを自らに課す。ユラの亡き祖父が最期を過ごした和室の障子穴からほのかに覗く、天国でも地獄でもない"あちら側"の情景が、癒えない苦しみも、懐かしい顔たちと再びめぐり逢うまでの試練に過ぎないことを示唆し、ほろ苦い青春映画を詩情豊かに締めくくっている。


(映画ライター 服部香穂里)

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