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こらむ・シネマ百景 第161回 "不機嫌な理由"

こらむシネマ百景タイトル画像

映画ライター 服部香穂里さんの『こらむ・シネマ百景』


ヴァカンス気分に浮かれる夏の鎌倉を舞台に、なぜかいつも仏頂面なヒロインの孤独な抵抗を描く『お嬢ちゃん』。皮肉交じりのタイトルよろしく、異性からも同性からも愛される容姿に恵まれながら、そんなものは自分本来の存在価値にあらずと好戦的な態度を貫くみのりは、持て余し気味の時間を自堕落に食いつぶす人びとに、真っ向から物申す。事件らしい事件も起こらず、あまりにナチュラルすぎて思わず吹き出してしまう他愛もない会話の応酬で大部分が構成されているが、それこそが、みのりの忌み嫌うくだらない日常であり、スクリーンのこちら側へも地続きに広がる、イマドキの風景でもある。みのりの非難の矛先は、羽目を外しがちな屈強の酒乱や、わけもなく謝ってばかりの大親友に対しても同様に向けられるが、正義漢ぶって吠え続ける自身でさえ、そんな現実の一部にすぎないと痛感させられるとき、彼女の生きる原動力でもあった憤怒は虚しさに変わり、しょうもないことだらけの世の中も、少しだけ赦せるようになる。主演の萩原みのりの覚悟みなぎる力演光る、曲げられない女性の心模様の移ろいを通して、感情に正直に振舞うことのできる“青の時代”の終わりを丹念に見つめる、ほろ苦くも清々しいユニークな作品だ。

 

原作者スティーヴン・キングのお墨付きを頂いた前作から27年後が舞台の『IT/イット THE END “それ”が見えたら、終わり。』は、ジェームズ・マカヴォイ、ジェシカ・チャステインら実力派キャストが新たに参戦し、さらにパワーを増す完結篇。89年の夏、それぞれに問題や悩みを抱えつつも、連続児童失踪事件の元凶たる“それ”の脅威を生き延びたルーザーズ(負け犬)・クラブの7人は、その名称に反して各々の分野で成功を収めていたが、再び“それ”が故郷に出没したと知り、彼らの間にただならぬ動揺が走る。本シリーズを並みいるホラーと一線を画す傑作にしているのは、不敵な笑みに残虐性やペーソスをも忍ばせ、道化姿で子どもの前に現れるIT=ペニーワイズの特異なキャラクター。怖いものほど惹かれてしまう厄介な幼心に巧みに付け入り、過激すぎる“遊び”の延長として、永遠に子どものまま黄泉の世界へ連れ去る恐怖の象徴だ。大人になっても未だ幼き日のトラウマを引きずり続けるメンバーの心に、遠ざけてきた帰郷や仲間との再会を機に、封印したはずの過去の傷とともに、これからも忘れたくない想い出も甦る。緊迫のシーンの連続の隙間に不意に舞い込むユーモアに爆笑し、かつての落ちこぼれと腐れ縁の宿敵との壮絶な死闘のゆくえに涙する、エンターテインメント巨篇である。

 

『トニー滝谷』(04)、『亀は意外と速く泳ぐ』(05)など良質の小品を世に送り出してきたプロデューサーでもある橋本直樹監督が、伊集院静の短篇小説に惚れ込み、15年越しで映画化を実現させた執念の1本が『駅までの道をおしえて』。数日間の臨海学校から帰宅すると消えていた、溺愛する白い柴犬を探し続ける8歳の少女と、遥か昔に亡くした息子を今も生きているがごとく振舞い続ける、喫茶店の老マスター。自分よりも幼く愛おしい存在と離ればなれになったふたりは、理不尽な現実を受け止めきれない者同士、年齢差を超えて親愛の情で結ばれていくが、愛犬との想い出の空き地に伸びる一方通行の線路跡にいつしか“駅”が生まれ、逢いたくてたまらなかった面々を乗せた列車が、二度と戻れぬ彼方に向けて走り出す……。今やヒットメイカーとなった新海誠監督の愛娘でもある、新津ちせの子役然としていない程よい愛らしさに、誰もが接したことのあるであろう素朴な犬が醸す郷愁にも似た親しみやすさ、そして、いつになくクセの少ない老紳士として自然に佇む国際的名優・笈田ヨシの意外性を加味するキャスティングの妙も奏功し、“子どもと動物には勝てない”なる映画界の通説を見事に覆す。避けたくても繰り返される別れに真摯に向き合うことで、すべての出逢いを慈しみ、歩んでいける。犬が紡いだ不思議な縁に、しみじみと感銘を受ける人間ドラマだ。

 

映画界でも勢いを増すタイから届いた、胸に迫るファンタジーの逸品『ホームステイ ボクと僕の100日間』。原作は、00年の製作当時にはまだ結成すらされていなかったKATTUN元メンバーの田中聖主演×中原俊監督×森田芳光脚本という異色かつ豪華なコラボレーションで実写映画化され、10年には気鋭・原恵一監督の手で劇場版アニメーション化もされた、森絵都の人気小説「カラフル」。死んだはずの主人公の魂が一時的に身体を借りることになる、いつも物憂げな少年の死の真相をめぐるミステリー的要素も強いストーリーであるにも関わらず、映像化される度に、新たな趣向を取り入れ進化・深化し続けているのだから、森女史も作家冥利に尽きるに違いない。タイならではの文化を劇的かつ効果的に織り込みつつ、それぞれに生きづらさや欠点を抱える家族や学友たちの人物像も一層立体的に描かれ、苦悶の日々の真っ只中で懸命に格闘を続けるひとたちの希望にもなり得る、生死にまつわる普遍的なテーマが、情感豊かに立ちのぼる。いささか腑に落ちなかった“ホームステイ”なる原題も、エンディングを迎える頃には心から愛おしく感じられる、窮屈な人生観に颯爽と風穴を開ける快作だ。


(映画ライター 服部香穂里)


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