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こらむ・シネマ百景 第149回 “別れられない理由”

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映画ライター 服部香穂里さんの『こらむ・シネマ百景』


 やはりケヴィン・スペイシーのままで観たかった『ゲティ家の身代金』(17)の題材にもなった実際の誘拐事件に着想を得て、ダニー・ボイル&サイモン・ボーフォイの名コンビが、連続ドラマの強みを活かしパワフルかつ繊細に映像化した「TRUST」(18)。大富豪にしてドけちな石油王の非情さを怪演したドナルド・サザーランドをはじめ、ヒラリー・スワンクやブレンダン・フレイザーら映画版よりも線の太いキャストが集結し、1話ごとの完成度も極めて高く、一筋縄ではいかない事件の全容がスリリングに紐解かれる。世界随一の金持ちと犯人グループのイタリアンマフィアとの、"ファミリー"の断ち難い絆のコントラストも壮絶な全10話だった。


 許されぬ恋におちた妻子ある常連客の消息を追い求め、店を構えるベルリンから彼の暮らすイスラエルを訪ねるケーキ職人と、突然逝ってしまった亡き夫への複雑な想いに揺れながら、イスラエルでカフェ経営の再開に努める未亡人。ひとりの男性の不慮の死が引き寄せた、彼を愛する男女の皮肉で切ないめぐり逢いの行方をじっくりと見守る『彼が愛したケーキ職人』。偶然を装いカフェで働き始めた青年は、凄惨な歴史が生んだイスラエルとドイツとの頑然たる障壁に孤独感を味わいつつ、磨き上げた菓子づくりの腕と柔らかな物腰で、客のみならず女店主の舌も心もとろけさせていくが、青年の素性や夫の死の真相など、明かされた途端にすべてが壊れてしまいそうな秘密に潜む不穏な緊張感が、自ずと惹かれ合うふたりに執拗にまとわりつく。痛みや苦しみを伴ったとしても、勇気を振り絞り現実と向き合うことで、大切なものまで覆い隠してしまう差別や偏見さえも乗り越えようとする彼らの奮闘に、熱いものが込み上げてくる佳篇だ。


 張本人はこの世にいないのに、その存在の影響下から決して逃れることのできないある家族の恐ろしくも哀れな運命を、すべてが意味ありげに配置された緻密なショットを重ねて見届ける『ヘレディタリー 継承』。折り合いの悪かった母の死後も、その影に怯えるがごとく、最期の日々を不気味なほど忠実に再現することに没頭するミニチュア作家の妻に対し、優しい言葉をかけてやることぐらいしかできない夫。親代わりだった祖母の死に動揺を隠せず、不可解な絵を一心不乱に描きなぐる妹を、心配しつつも持て余す兄は、幼い頃のトラウマから母にも不信感を抱き続けている。祖母の死に端を発し、既に壊れかけていた一家に畳みかけるように襲いかかる悲劇の連鎖に、観る者も否応なく引きずり込まれ、ミニチュア内の人形と化すがごとき無力感にさいなまれることになる。悲運に抗えない彼女たちに自らを重ね合わせ、人生のやることなすことすべてが悪あがきに思えてくると同時に、秘めたるマゾ気質がくすぐられて快感さえ覚えてしまう、かつてない感覚が呼び起こされるホラーの力篇である。


 複雑な家庭で育った末に罪を犯し、少年院で出逢った三人組が、前科者には生きづらい娑婆をサヴァイヴするべく、犯罪集団のみをターゲットに危険な窃盗行為を繰り返す様を活写した『ギャングース』。出世作『SR サイタマノラッパー』(09)など"トリオ映画"の名手・入江悠監督が、人気コミックを原作に、自身も丹念な取材を敢行。現在の社会を根深く巣食う悪の、搾り取れるだけ搾り取る卑劣かつ巧妙なやり口に鋭く切り込むとともに、三者三様の個性の衝突で時に対立しながらも、悲しき腐れ縁から本物の家族以上の親密さで結ばれていく小悪党たちの成長の軌跡を、血の通った青春群像として生き生きと紡ぎ出す。とりわけ、三人の中で最初にキャスティングが決まったという加藤諒は、その独特すぎる風貌ゆえか、何かと過剰気味に映ったこれまでの作品とは一線を画し、少々ズボラだが仲間想いのムードメーカー役でナチュラルな好演を見せ、目を背けたくなるような醜悪さをはらむリアルな現代絵図でもある本作に、ほんわかしたユーモアをもたらしている。


 ウィノナ・ライダーとキアヌ・リーヴス。ある世代にとってのポップスターでありながら、そこはかとなく漂い続ける不遇な気配に、妙に肩入れしたくもなる稀有なふたりが、ああ言えばこう言う超絶バトルを繰り広げる『おとなの恋は、まわり道』。のぼせ上がったカップルのナルシシズムの極致"リゾート婚"を題材に、未だ別れの痛みを引きずる新郎の元婚約者と、複雑な生い立ちゆえ厭世的になった新郎の異父兄弟との、最悪の出逢いに始まる波乱の顛末を、主役であるはずの新婚夫婦などそっちのけで、ブラックユーモアが暴走する丁々発止の対話のみで軽快に綴る。4度目の共演となる互いを知り尽くしたふたりの、程よい緊張感と打ち解けた空気が入り混じる絶妙のコンビネーションは、すれ違っては結ばれる男女の愛の変遷を9年ごとのスパンで追い続ける名作『ビフォア』シリーズの最初2本をすっ飛ばし、いきなり第3作『ビフォア・ミッドナイト』(13)を見せられたような贅沢な情感に溢れている。その日限りの刹那的な快楽の気安さと、式が終われば二度と逢えない寂しさとの間で揺れる、心身傷だらけな男女の選択に目が釘付けの、チャーミングな逸品であった。


(映画ライター 服部香穂里)

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