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こらむ・シネマ百景 第147回 "リ/ボーン"

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映画ライター 服部香穂里さんの『こらむ・シネマ百景』


 樹木希林と大杉漣。それぞれのスタンスから日本映画界に多大な貢献をしてきたふたりの、結果的に映画人生を締めくくることになった出演作『日日是好日』と『教誨師』が、奇しくも同時期に公開される。 黒木華ふんする主人公の24年間を静かに見守る、"お辞儀の仕方が只者ではない"お茶の先生を、これまでにないほどアクもクセも削ぎ落して"普通"に好演する希林さん。多彩な死刑囚をそれぞれの持ち味を押し出し怪演する6人の演技巧者に対し、主演でありつつ全篇を通じ"受け"の芝居に徹することで、穏やかな佇まいに複雑な過去を秘めた牧師の内面に肉迫してみせた漣さん。長く闘病をオープンにしてきた希林さんと、あまりに突然逝ってしまった漣さんとでは状況が全く異なるが、ベテランの"最晩年"にして、新境地を開く可能性に満ち溢れた意欲作を手繰り寄せてしまう類まれな人間力に、感銘を受けずにいられない。さらなる代表作として記憶されるであろう両作の中で生き続けるふたりの名演を、いつまでも焼きつけていたい。


 チャールズ・ブロンソンを主演にシリーズ化もされた『狼よさらば』(74)を、ブルース・ウィリスを主演に迎えて甦らせた『デス・ウィッシュ』。凶悪な事件が多発するシカゴを舞台に、家族を理不尽に奪われた善良な外科医が、警察の捜査も虚しく一向に捕まらぬ犯人への復讐心を募らせるうちに、悪を成敗する"死神"へと変貌する。"拷問映画"の名手イーライ・ロス監督が、お子さま向けと侮るなかれの『ルイスと不思議の時計』(18)も併せて多才ぶりを発揮。オリジナルから40年以上の歳月を経て、際どい情報や銃器も手軽に入手でき、個人の撮影した映像も一気に拡散してしまう今の時代の危うさを、巧みに物語に反映させる。ブロンソン同様に、変身後の処刑人っぷりが板に付き過ぎの感もあるウィリスの、自身の勇姿を捉えた映像にうっとりするかのように見入る狂気を帯びた表情にも、ぞわっとさせられる。様々な境界が曖昧となり、目には見えない悪意や暴力性が蔓延する現代社会の暗黒面に、ブラックなユーモアを散りばめつつメスを入れる、アクション・エンターテインメントである。


 近年、尊厳を求め声を大にして闘うムーブメントが過熱しているが、そんな風潮の遥か以前より、個々のもつ多様性を歌とダンスを融合させたチーム力で高らかに肯定してきた人気シリーズの、第3弾にして最終作となるのが『ピッチ・パーフェクト ラストステージ』。最高の形で大学を卒業したアカペラグループ"ベラーズ"の面々だったが、夢と希望を抱きスタートさせたはずの新社会人生活には、ままならぬ現実の壁が立ちはだかる。失意の日々を過ごす中、米軍慰問団の海外ツアーに伴い、グループ再結成の機会が訪れるが、華やかなりし栄光をもう一度!と張り切る彼女たちに、強力なライバルや思いもよらぬトラブルが襲いかかる。本シリーズの絶妙なスパイスとして欠かせない、超辛口コメンテーター・コンビは今回も健在で、青春爆走中のキラッキラな若者たちを、酸いも甘いも知り尽くしたアダルトな斜め目線で見守り続けてきた彼らならではの、新生ベラーズに向けて送られるエールには、厳しさの中にも温かさがにじむ。いつかは終わってしまう祭りの後も、輝ける記憶を活力に前進する彼女たちの未来を予感させる、シリーズにふさわしいフィナーレであった。


 若松孝二監督のスピリットを受け継ぎ、目の覚める快作を放ち続ける白石和彌監督が、若松プロの門戸をたたいたひとりの女性を軸に、若松監督に魅せられた映画人たちの若かりし日々を活写する『止められるか、俺たちを』。強烈な個性と美学をもつ男性陣に囲まれ、映画づくりの魔力に急激に惹かれる一方、自分の本当に撮りたいものを見つけられぬまま、次第に孤立感を深めていく助監督の心の機微を、60年代の香り漂う実力派女優・門脇麦が繊細に巧演。役者として飛躍するきっかけとなった恩人でもある若松監督役に、怯まず豪快に挑んだ井浦新ほか、所縁の深い俳優やスタッフたちが結集。溢れんばかりのエネルギーを凝縮させた野心作を連発し、強大な権力に対しても抵抗を試みた映画狂いによる青春群像が、生き生きと映し出される。昭和どころか平成まで終わりに近づき、思い描いていた映画像さえも遠くに消え去っていくような淋しさに襲われる中、くすぶりかけていた映画への愛や情熱を改めて奮い立たせてくれる力篇である。


(映画ライター 服部香穂里)

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