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こらむ・シネマ百景 第145回 "女の子だもん"

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映画ライター 服部香穂里さんの『こらむ・シネマ百景』


 ある家族の映画を観に行ったらば、父娘と思しき方たちと一緒になった。ご高齢の男性は目が不自由らしく、「お隣に、女の子が座ってはるから……」とお連れの方の説明を聞き、彼女と座席を入れ替わることに。その後も上映までのひととき、気のおけない者同士ゆえのやり取りが続き、"女の子"って形容にひとりで思いっきり赤面しつつ、漠然とした映画そのものよりも、妙にリアルな二人連れの佇まいの方が、強く印象に残ったのであった。


 あの『オーシャンズ』シリーズを、女性だけのチームに組み替え復活させた『オーシャンズ8』。近年相次ぐリブート企画の中でも話題性は十分なだけに、完成前から期待と不安が相半ばしていたが、とりあえずは杞憂に終わり一安心。壮大かつ緻密な犯罪計画を塀の中で十二分に練り上げ、個性豊かな面々のまとめ役となるのは、名泥棒ダニー・オーシャン(ジョージ・クルーニー)を兄にもつデビー(サンドラ・ブロック)。今回の成功の要因は、女性である必然性を物語の核に据えたこと。男性とは別の意味で面倒くさいものも抱える彼女たちは、単なる一攫千金狙いではなく、どことなく停滞気味の現状を打破するべく、それぞれの動機を胸にリスキーな計画に参加する。やるからには絶対に失敗したくない現実的なチームの総意を反映してか、意外にゆるいトーンの旧シリーズに比べ、ユーモアはそのままに、犯罪映画らしいスリルと高揚感は格段にアップ。世界随一のファッションの祭典を舞台に、『メットガラ ドレスをまとった美術館』(16)では招かれるセレブの目玉として度肝を抜く衣装で登場したリアーナが天才ハッカーをクールに演じるなど、遊び心溢れるキャスティングもハマった、ゴージャスな娯楽作だ。


 チャーチルは、ノルマンディー上陸作戦に反対していた―そんな埋もれていた事実を、96時間というタイムリミットを設け、彼の激しく揺れ動く心情を軸に浮き彫りにする『チャーチル ノルマンディーの決断』。首相就任直後のチャーチルの葛藤を描いた『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』(17)の頃から月日はさらに流れ、長引く戦争に伴い、のしかかり続ける重圧や責任感とともに、孤立を深めるチャーチル。国の命運を握るバディとしてジョージ6世との結束は強まる一方、おしどり夫婦で知られた妻クレメンティーンとの関係は、微妙なすれ違いが重なり、危うい段階に差しかかっている。オスカーに輝いたゲイリー・オールドマンとは異なるアプローチで役を完全に取り込んだブライアン・コックスの力演も圧巻だが、クレメンティーンにふんするミランダ・リチャードソンも、時に感情を爆発させる緩急利いた妙演で、一歩も引けを取っていない。桁違いのストレスや過去のトラウマなどから自分を見失いかけている夫に対し、英国の置かれた切羽詰まった状況と、そこで首相が果たすべき役割とを広い視野から冷静に把握した上で、正しい方向へと導く賢妻をしなやかに演じ、熟年夫婦の再生も心にしみる、見所多い佳篇となった。


 女性が陥りがちな、"こんなはずじゃなかった"とついつい欲張るジレンマを、ユーモアを交えつつも鋭くえぐった『ヤング≒アダルト』(11)の、ジェイソン・ライトマン監督&ディアブロ・コディ脚本&主演シャーリーズ・セロンの名トリオが再結集した『タリーと私の秘密の時間』。多彩なキャリアで育んだ自信と誇りを拠り所に、いかなる役柄にも全身全霊をかけてシンクロする、セロンのファイティング精神は今回も健在で、結構な年齢で予定外に第3子を妊娠し出産→待ったなしに突入した壮絶な育児モードに疲弊し、負のスパイラルにはまり込む母親の混乱ぶりを、大幅に体重を増量し外見からも説得力豊かに体現する。人は好いが非協力的な夫にも頼れず絶望的な状況の中、イマドキの若者っぽい風貌とは裏腹に仕事は完璧な夜間専門の若きベビーシッター・タリーが救世主として現れ、雇用関係を超えた親愛の情で結ばれるにつれ、雑事に忙殺され忘れかけていた何かを生き生きと取り戻す。不意に押し寄せる荒波にもまれ、夢見た自分と実際の自分とのギャップは広がる一方であっても、ある瞬間に感じていた想いの数々は、形を変え、今もこれからも脈打ち続ける。出逢いのときめきと別れの切なさが一気に込み上げるような味わい深い余韻に浸りつつ、すぐさま頭から観直したい矛盾した衝動にも駆られてしまう、何とも困った逸品である。


(映画ライター 服部香穂里)

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