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こらむ・シネマ百景 第157回 "守備貫徹"

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映画ライター 服部香穂里さんの『こらむ・シネマ百景』

 膨大な利益を独占しようと画策する多国籍企業に抗い、人類の健全なる未来を懸け、代々受け継がれてきた種子の多様性を守るべく奔走するひとたちの活動に迫る『シード ~生命の糧~』。不透明な工程を経て作り出された農作物に、厳しい自然環境を生き延びてきた由緒ある在来種が、急激に淘汰されつつある。そんな種子を取り巻くシニカルな現状に、排他的で不寛容な現代社会の悪しき一面がダブって見える。政界とも連携してアブノーマルな遺伝子組み換え作物を強引かつ周到に流通させ、農家や消費者を取り返しのつかない危機へと陥れる強大な組織側の"顔"が全く見えないのに対し、固有の風土が育んだ神秘的な色彩のトウモロコシの稀少種に、自身のルーツを重ねる誇り高きアメリカ先住民族や、まだ見ぬ(+食さぬ)珍しい植物や種子を貪欲に捜し求め、世界各地を飛び回る命知らずのお宝ハンターたちの、いささか特殊であれ充実した半生を物語る個性溢れる容貌が、鮮烈なインパクトを放つ。滑稽すぎる真実を戯画化したアニメーションなども交えつつ、圧倒的な情報量を軽妙なタッチで消化してみせた、食育ドキュメンタリーの快作だ。


 第一次世界大戦下のフランスの農村を舞台に、戦場で生死を賭して闘う男たちを想いつつ、それぞれに大切な何かを守るために奮闘する、女たちにとっての戦争の在りようを描く『田園の守り人たち』。息子ふたりを戦争にとられ、近所に嫁いだ娘とともに農作業に明け暮れる未亡人のオルタンスは、人手不足を補うべく、働き者と評判の孤児院出身のフランシーヌを雇い入れるが、休暇で帰郷した次男が彼女に惹かれたことで、歯車が狂い始めていく。数々の賞に輝いた『神々と男たち』(10)では、極限に置かれた修道士たちの心情を、台詞を最小限に留めて細やかに描出したグザヴィエ・ボーヴォワ監督が、女優陣の密やかな努力の結晶でもある淡々とした労働風景を丹念に重ねることで、見落とされがちな戦争の側面に光を当てる。実の母娘でもあるナタリー・バイとローラ・スメットが、よかれと暴走してしまう歪んだ家族愛を生々しく体現する傍ら、演技未経験の新星が、実直な気質と勤勉さで理不尽な現実を生き抜く一匹狼のたくましさを、堂々と好演。戦争によって変わったものと変わらないものが混在するする時代の変わり目に、自らの意志で道を切り開くヒロイン像が清々しい逸品である。


 冷戦に揺らぐポーランドを発端に、出逢いと別れを繰り返しながら激しく求め合う男女の運命の変転を、印象的な音楽の数々ととともに、陰影に富むモノクロ映像に焼きつけた『COLD WAR あの歌、2つの心』。国立舞踊団の養成所で、西側の音楽にも精通する手練れのピアニストと、歌も踊りも得意な大器を予感させる生徒として初めて対面したヴィクトルとズーラは、すぐさま恋におちるが、何かとままならない鬱屈した社会を覆う不穏な空気が、ふたりの間にも深い影を落とす。好きで好きでたまらないのに、堅実なヴィクトルが名声や地位を手にするや、新たな刺激や自由への飢餓感から、すべてぶち壊してしまう奔放なズーラ。アカデミー賞外国語映画賞を受賞した『イーダ』(13)のパヴェウ・パヴリコフスキ監督は、離れても別れられない熱烈なカップルの道行きに、敢えて空白期間をもうけることで、観る者の想像力を駆り立てつつ、濃密な恋愛劇に、心地よいテンポをももたらす。ふたりだけの世界を守るために彼らの選び取る決断が、愛とは、幸福とは何かを改めて問いかけ、ほろ苦くも陶然たる余韻で包み込む名篇だ。


 身勝手な憎悪による暴行を受けた末、深刻な脳障害と後遺症に苦しめられつつも、自ら築いたミニチュアの空想世界を写真に収めることで、アイデンティティを守り抜いたマーク・ホーガンキャンプ。ドキュメンタリーにもなった彼の再起への軌跡を、かのロバート・ゼメキス監督が、大胆な手法で撮り上げた『マーウェン』。克服し難いトラウマと格闘する中で、公判中の事件と懸命に向き合おうとするホーガンキャンプの日常と並行して、自身をニヒルなヒーローに見立てた"ホーギー大尉"を軸に、実生活で窮地を救ってくれた心優しき女たちも瓜二つのフィギュアのキャラクターで活躍する、破天荒な冒険譚が繰り広げられる。とりわけ、モデルとなる実際の人物が唯一存在せず、時には虚構から現実へと浸食し、ホーギーならびにホーガンキャンプをも翻弄する"ベルギーの魔女"を、『女は二度決断する』(17)の力演も記憶に新しいダイアン・クルーガー(のフィギュア)が怪演するのも、何とも贅沢なキャスティング。最新技術を積極的に取り入れつつ、独自の作品を構築してきたゼメキスの真骨頂であり、実写とパフォーマンス・キャプチャーを巧みに織り交ぜ、"リアル『トイ・ストーリー』"のごとき、百聞は一見に如かずの超絶エンターテインメントを完成させた。


(映画ライター 服部香穂里)

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