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こらむ・シネマ百景 第172回 “母の秘めごと”

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映画ライター 服部香穂里さんの『こらむ・シネマ百景』
第172回 “母の秘めごと”

BSで再放送中の「澪つくし」(85)を懐かしく見ている。朝っぱらから“妾”と連呼するドラマが、爆発的な視聴率を叩き出していた放送当時の大らかな気風に思いを馳せながら、何かと女性が生きづらかった明治から大正へ移行する時代を背景に、幅広い世代の様々な個性の女たちを活躍させる清々しさに朝ドラの王道を堪能する。

誰にでも秘密はある。互いを想うがゆえに、嘘をつきとおそうとする母娘の葛藤を、イランと日本を舞台に描く『ホテルニュームーン』。テヘランの大学に通うモナは、女手ひとつで育ててくれた母に内緒で、ボーイフレンドとカナダ留学を計画中だったが、若き日の母と自分が見知らぬ日本人と撮った写真を発見し、自身の出生に疑念を抱く。『星の子』(20)、『空に住む』(20)など、相次ぐおいしい役どころで存在感を遺憾なく発揮する永瀬正敏が、母娘関係のカギを握るキーパーソンをミステリアスに好演。イランでは最高視聴率90パーセント超えの人気を誇った「おしん」(83)の小林綾子が切ない情念を力演し、日本パートをキリリと引き締める。北野武監督作品などで知られる名撮影監督・柳島克己のカメラが、現在と過去、ふたつの国の間を流麗に往還し、ある母娘にまつわる“封印されてきた想い出”が解きほぐされるにつれ、様々なひとの愛に支えられて自身もここにいるという実感が、しみじみと湧き起こってくる佳篇だ。

ある世代以上の記憶に今もなお鮮明な実際の未解決事件をモチーフに、その知られざる“真相”に大胆な解釈を導入し迫ろうと試みる、塩田武士の同名小説を映画化した『罪の声』。京都の鴨川沿いでテーラーを営む店主が、亡き父の遺品の中に幼い自分の声が録音されたカセットテープを見つけるが、その声が、35年以上も前の某事件の脅迫電話に利用されていた事実に直面し愕然とする。同じ事件を追う新聞記者と協力し、当時を知る数々のひとから話を聞いて回るうちに、予期せぬ真実が浮かび上がる……という展開だが、その証言者を演じる面々が、絶妙かつ実に豪華。テーラーの余命いくばくもない母親役の割に貫録たっぷりの梶芽衣子や、号泣必至の迫真の熱演で魅せる高田聖子をはじめ、関西圏を中心に芝居巧者が次々と登場し、少々作り込み過ぎな筋立てにもリアリティを注入する。元ネタとの答え合わせをしつつ、あくまでフィクションとして、謎解きの醍醐味や複雑な心情が交錯する群像劇を、クライマックスまで堪能できるエンターテインメント作品だ。

消息を絶った息子とどことなく似た佇まいの少年に遭遇した母親の、かき乱される心模様を細やかに描く『おもかげ』。アカデミー賞候補にもなったロドリゴ・ソロゴイェン監督の短篇(公式HPで10月22日まで公開中)を自ら叩き台にしているだけあり、元夫と旅行中の6歳の息子からのSOSの電話を受けた母エレナの動揺を長廻しで捉える、冒頭のシークエンスの吸引力は圧巻だ。スリラー調から一転、舞台は一気に10年後に飛び、息子が消えた海辺のレストランで働くエレナと、息子を彷彿とさせるジャンとのひと夏の交流と、年の離れた男女の形容し難い関係性が投げかける波紋が、じっとりとしたトーンで描き出されていく。エレナのジャンへのまなざしに母性以上の何か危うさを感じ取る、実力派女優アンヌ・コンシニふんするジャンの母と対峙するシーンは、愛息を守れなかった元夫をエレナが一方的に罵倒する場面の冷ややかさとは対照的に、女同士ならではのむき出しの感情が熱い火花を散らす。母であり女でもあることで揺れながら、喪失の袋小路からかすかな光を見出す軌跡が、深い感慨をもたらす逸品だ。

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