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こらむ・シネマ百景 第174回 “望郷物語”

こらむシネマ百景タイトル画像映画ライター 服部香穂里さんの『こらむ・シネマ百景』
第173回 “望郷物語”

日本でも度々アニメーション化されるなど、幅広い世代に親しまれてきたフランスの児童文学を、思わずにんまりしてしまう豪華キャストで実写化した『家なき子 希望の歌声』。11歳にして捨て子だった事実を唐突に突きつけられた上、旅芸人に売り飛ばされてしまう少年レミが、誰をも魅了する歌声と心優しき純朴さで、次々と襲いかかる逆境を乗り越えていく。教育的な要素も含む馴染み深い物語ではあるものの、『8人の女たち』(02)では姉妹役だったヴィルジニー・ルドワイヤンとリュディヴィーヌ・サニエがレミにそれぞれ多大な影響を与える母親役で登場したり、老年のレミをあの俳優が演じていたりと、劇中で描かれない余白の部分においても様々な妄想が膨らみ、映画好きには興味が尽きない。高級な産着と幼少の頃より胸の奥底で響き続ける美しい歌が手掛かりのレミの故郷を求める旅は、生まれた境遇がどうであれ、ひとつひとつの出逢いを大切に邁進すれば自ずと道は切り開けることを、清々しく証明してみせてくれる。
http://ienakiko-movie.com/

俳優を目指し上京するも、元カノとの不毛な関係を引きずり夢さえ失いかけている27歳の青年が、あらゆる点で型破りな高校時代の親友との日々に思いを馳せるうちに、情熱を取り戻していく姿を活写する『佐々木、イン、マイマイン』。互いに恵まれない家庭環境に置かれるも、何かと後ろ向きな自分を根拠もないのに全肯定し、背中を押し続けてくれたライオンヘアーの佐々木。売り出し中の後輩の薦めで好機を掴んだ舞台公演の稽古に打ち込むにつれ、周囲に流されず自分の尺度で前のめりに生きていた佐々木の姿が脳裏に浮かび、知らず知らずのうちに封印していた過去と進行中の現在がダイナミックに交錯していく。90年代以降生まれの監督とキャスト陣が集結し、手を伸ばせば届きそうなのにもう届かない、もどかしい青春の輝きの儚さと痛みをリアルかつエネルギッシュに映し出す。そんな彼らを眺めていると、たとえ二度と逢えなくても濃密な時間をともに過ごし、大切な何かを分け与えてくれた佐々木のような存在が眠れる記憶から目を覚まして暴れ出し、わけもわからず涙が込み上げてくる力篇だ。
 
周囲の反対を振り切って結ばれた、パレスチナ系の父とイスラエル系の母のもと、アメリカで生まれ育った家族想いの12歳の料理大好き少年の葛藤と奮闘を描く『エイブのキッチンストーリー』。主演を務めるのは、ナチス占領下のフランスでのユダヤ人救出劇を、牧歌的情景にスリリングな人間模様を編み込み描出した『アーニャは、きっと来る』(20)の日本公開も間近に控える、注目の新星ノア・シュナップ。宗教や政治などにまつわる一筋縄ではいかない歴史的背景も絡み合い、顔を揃える度に口論の絶えない父母両家の親戚の心をひとつにするべく、みんなで美味しく楽しめる創作料理に挑む健気なエイブの、多感に揺れ続けるアイデンティティを模索する苦悩とささやかな成長を、豊かな表情と躍動感たっぷりに好演する。深刻で根深い社会的な題材を、愛するがゆえに衝突もしてしまう家族と料理という普遍的なモチーフを掛け合わせて咀嚼し、誰の心にも訴えかけるユニークな快作へと結実させている。
https://abe-movie.jp/

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