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こらむ・シネマ百景 第175回 “はぐれもの人生”

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映画ライター 服部香穂里さんの『こらむ・シネマ百景』

第175回 “はぐれもの人生”

 

あまり面白くない映画を観た帰りに、心の声が次々と漏れだす女性に地下鉄で遭遇し、一気に現実に引き戻されて目が離せなくなったことがある。人生にたじろぐ女性の共感を得て、興行と評価の両面で成功を収めた『勝手にふるえてろ』(17)の大九明子監督と原作・綿矢りさが再び組んだ『私をくいとめて』のアラサー独身女性の主人公を観ながら、ふとそんな記憶が甦った。イマジナリーフレンドならぬ、頼れる相棒にして分身のような存在・A(その男前の声を吹き替えるのは、出演作が途切れぬ人気俳優N!)を脳内に住まわせ、ぼっち生活をエンジョイする31歳のみつ子(のん)。時に案内役として適切な方向に導きつつ、彼女自身を絶対に否定もしないAとの“対話”は、傍目には“独語”であり、未だ芸能界ズレしていない無垢さを残すのんが実に幸せそうに演じれば演じるほど、孤独な彼女の心の痛みや危うさがリアルに伝わってくる。職場で出逢った20代の営業マン(のんより実際は年上だが、年下キャラを違和感なく好演する林遣都)とのじれったい恋がスローペースで進展するにつれ、Aとの心地よい均衡も崩れ始め、現実と空想をまたぐ不思議な三角関係の行方は、どことなくほろ苦い余韻を残す。

https://kuitomete.jp/

 

アウトローの横溢する生命力をスクリーンに活写してきた、井筒和幸監督の8年ぶりの新作『無頼』は、持ち前の度胸と腕っぷしひとつで裏社会をのし上がる青年の波乱の一代記を通し、激動の昭和史を紐解く約2時間半の意欲作。母の顔も知らず、呑んだくれの父も見限り、男一匹、やくざ渡世を邁進する正治は、社会に居場所のない寄せ集めの一家を率いて、自ら道を切り開いていく。血のつながりを超えた関係性で結ばれた仲間のために身を賭す、義侠心満々の個性豊かな男たちの群像劇が展開する傍ら、実父の借金返済に追われるホステス時代に正治に見初められ、しょっちゅう刑務所送りとなる曲げられない彼に代わり、“大家族”を包容力たっぷりに支える極妻へと成長する紅一点ヒロインを、柳ゆり菜が熱演。生まれや育ちがどうであれ、なりたい、やりたい自分を諦めず、かけがえのない存在を拠りどころに貪欲に突き進む者たちを、力強く肯定する好篇だ。

https://www.buraimovie.jp/

 

 愛妻を亡くした喪失感に囚われる外科医と、刹那的な刺激や快楽を求め続けるSM嬢との奇妙な邂逅を描くフィンランド映画『ブレスレス』。予期せず迷い込んだSMクラブで、女王様ルックに身を包むモナに客と思い違いされて首を力いっぱい絞められたユハは、薄れゆく意識の中で、亡き妻の幻影に遭遇。その恍惚たる境地に中毒性の快感を覚え、仕事にも身が入らず足繁くクラブに通ううちに、謎や傷を秘めるモナにも興味を抱く。昼間は意外なほど堅実な仕事をこなしながら、夜ごと街へと繰り出し、別人のように大胆に振る舞うモナは、執拗に付きまとうストーカーまがいのユハを拒絶しつつも、心のどこかで彼に惹かれている自分に困惑する。生と死、正気と狂気の狭間を彷徨う男女が、みっともなさや弱さ全てをさらけ出すことで再生していく、ぶっ飛んだ味わいのラブストーリーだ。

https://breath-less.com/

 

ソ連の支配下に置かれた第二次大戦終結後のハンガリーを舞台に、壮絶なホロコーストを生き抜いた少女と親子ほど年の離れた医師とのふれ合いを描く『この世界に残されて』。家族の生命を無残に奪われた現実から目を背ける16歳のクララは、診察に訪れた寂しげなまなざしの医師アルドに、自分と似た虚無のようなものを感じ取る。唯一の肉親や学校にもなじめぬまま、彼にだけは率直に心を開くうちに、大切なひとたちを救えなかった絶望や罪悪感を共有するふたりは形容しがたい親密さを育み合うが、クララが美しく成長するにつれ、周囲の疑心暗鬼が生むよからぬ噂や憶測の渦に吞み込まれていく。本当に伝えたい気持ちは胸の奥にしまい込み、互いを気遣うがゆえに、最良の道を選ぼうとする彼女たちの前途に思いを馳せながら、温かくも切ない感慨がこみ上げてくる逸品である。

https://synca.jp/konosekai/

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