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こらむ・シネマ百景 第176回 “福よ、来い”

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映画ライター服部香穂里さんの『こらむ・シネマ百景』

第176回 “福よ、来い” 


 かつて、ルーブル美術館1周最短記録更新に挑んでみせた、『はなればなれに』(64)の不届き者トリオにも、ぜひとも観させてやりたい『ルーブル美術館の夜 -ダ・ヴィンチ没後500年展』。メモリアルイヤーにルーブル美術館にて開催され、史上最多動員を記録したレオナルド・ダ・ヴィンチ展を、静まり返った真夜中の館内に高精細度カメラを潜入させ、ダ・ヴィンチ狂のふたりの学芸員ならではの含蓄ある解説付きで、疑似体感できるお得な作品。混雑する人ごみの隙間からでは絶対に見えない至近距離で、陰影豊かに捉えられた数々の展示物から、をありのまま描きとるべく腐心し続けた天才にして努力家でもあったダ・ヴィンチの意外な側面を紐解きつつ、流麗かつ斬新なカメラワークを駆使し、ルーブルという壮大な器の見事さにも光を当てる。やら事前予約制の面倒さやらで、美術館からも脚が遠ざかりがちないま、気の赴くまま個々に集中できる理想的な空間の映画館で、自粛下でくすぶり続けるアート熱や探求心を十二分に満たしてくれる、新年のお年玉的逸品だ。

https://liveviewing.jp/contents/louvre/

 

 私生活そっちのけでプロデューサーとして献身してきた映画監督の急逝で、すべてを失い崖っぷちに立たされたアラフォー女性の、ざわつく心の軌跡を温かく見つめる『チャンシルさんには福が多いね』。懸命に築いてきたキャリアを、懇意の女社長に全否定され絶望に陥る中、映画の趣味こそ水と油だがジェントルマンな監督志望の年下男性や、なぜかほぼランニング姿で突発的に出没する香港大スターの幽霊(=自称)が、仕事に忙殺されて気づかずにいた、ささやかな幸福のありかへと優しく導いてくれる。誰もが眼前を覆いつくす靄をかき分け、一歩ずつ進んで行かなければならない苦境にあえぐ現況下で、予期せずリセットされた人生にとまどいつつも、焦らず腐らず、日々の出逢いや発見を慈しむチャンシル女史の地に脚つけた姿勢は、大いに心揺さぶられ、励まされもする。『東京物語』(53)をはじめ、数々の作品へのオマージュを通して溢れ出す映画愛によって、自らの原点を尊び信じ抜く強さを、改めて噛みしめたくなる佳篇だ。

https://www.reallylikefilms.com/chansil

 

 TVが世間の流行を先取りしていたバブル期から現在まで、ドラマ界を最前線で牽引し続ける人気脚本家の坂元裕二が、10数年ぶりに映画脚本を書き下ろした注目作が『花束みたいな恋をした』。ユニークなきっかけで恋におちる男女が、運命づけられた別れへと向かっていくプロットの流れは、「最高の離婚」(13)のバリエーションにも見える。とはいえ、主人公カップルの出発点を、社会に踏み出す前の夢や希望に満ちた大学生と若めに設定することで、なんでも共有し一緒にいられるだけで幸せだった相思相愛の極致から、次第にすれ違い別々の道を選ぶまでの歳月が、観る者の心もくすぐる実名を多用した細やかな描写を重ね、より劇的で物悲しく映し出される。売れっ子の菅田将暉と有村架純が等身大の恋模様にリアルに息を吹き込むのに加え、その破局のはじまりと終わりを彩るキーパーソン的存在に、小林薫と清原果耶がワンポイントで投入されるのも、実に贅沢で腑に落ちるキャスティングの妙。どうしようもないほど好きだったあの頃の気持ちは、これから先も、ふたりの胸をときめかせ、うずかせ続けるに違いない、切なくも爽やかな余韻のメロドラマである。

https://hana-koi.jp

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