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こらむ・シネマ百景 第177回 “流れる。”

こらむシネマ百景タイトル画像

映画ライター服部香穂里さんの『こらむ・シネマ百景』

177 “流れる。”


松浦亜弥をはじめとする“ハロー!プロジェクト”のアイドルたちに魅了された面々の、遅咲きの青春模様を軽妙に綴る『あの頃。』は、既に懐かしい近過去へのノスタルジーにも、心くすぐられてしまう。いい年した男たちが、夜ごとハロプロのDVDを鑑賞し、愛してやまないメンバーの魅力について、わちゃわちゃと独特の観点で熱く語り合う。ややもすると“痛さ”ばかりが際立ちかねない、他愛もない日常をチャーミングに輝かせたのは、へらず口をたたき続ける面倒くさい人びとをも愛おしく映す群像劇の名手・今泉力哉監督と、世渡り下手なはみ出し者にスポットを当てる作品を発表し続け、監督としても特異な地位を築く脚本・冨永昌敬との、贅沢な異色コンビ。自分が好きなものを熟知した筋金入りのオタクたちに、とびっきりの共感と敬意を注ぐとともに、“永遠の中坊”として結束していたかに見えた彼らに訪れる、それぞれの転機をもリアルに描き出す。“いま”が一番楽しい人生を探求し続けることの喜びと切なさが、心の奥へと染みわたる逸品だ。

https://phantom-film.com/anokoro/



長きにわたり絶縁状態だった息子の突然の訃報に悲嘆する間もなく、息子が遺したゲイバーの再建に挑むことになった母親の奮闘を描く『ステージ・マザー』。保守的なテキサスの片田舎で聖歌隊の指揮を務めていた主婦が、さりげなく威圧的な夫の束縛から逃れて、葬儀に参列するべく大都会へと足を踏み入れる。生来の世話焼きな性格に駆り立てられ、複雑な家族関係や薬物依存症など、様々な苦悩を抱える息子の恋人や仲間のために奔走するにつれ、人生も終盤に差し掛かって後悔まみれの彼女自身も、パワフルに再生していく。互いを理解できぬまま、離ればなれになってしまった親子が、稀有なエンターテイナーとして輝きを放ち続けた息子の気配の感じられる舞台の上で、奇跡の再会を果たす。存在は消え失せたとしても、大切なひとの想いを引き継ぐことで、悲しみさえ喜びへと変わる圧巻のパフォーマンスが、温かな涙をもたらす。

https://www.stage-mother.jp



再開発により急速に都市化の進む中国・富陽を舞台に、愛が空回りして時にすれ違ってしまう親子三代の心のゆくえを、移りゆく四季を背景に丹念に見つめる『春江水暖~しゅんこうすいだん』。高齢だが気丈な家長の老母が、親戚一同が集う祝宴の席で倒れて介護が必要になったことから、男ばかりの四人兄弟とその家族の間に波紋が広がり、それぞれの家庭に潜む厄介な問題も露わにされていく。本作で長篇デビューを飾る1988年生まれのグー・シャオガン監督は、キャストの大部分を自身の身内や知人に実際の経歴に近い役柄を割り振り、彼らのナチュラルな立ち居振舞いが、演技なる枠組みを飄々と飛び越える。迷いのない長廻しやロングショットを多用し、留まることなく流れる時間のうねりに身を任せるほかない、ひとの運命の儚さや無常さが、しみじみと胸に焼きつけられる。数々の名匠のスピリットを色濃く継承する若き新鋭が、今後いかに熟成へと向かうかにも興味津々の、東京フィルメックスで審査員特別賞を受賞するなど、数々の賞を席巻した注目作だ。

http://www.moviola.jp/shunkosuidan/


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