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こらむ・シネマ百景 第156回 "がんと生きる 言葉の処方箋"

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映画ライター 服部香穂里さんの『こらむ・シネマ百景』

 順天堂大学医学部の樋野興夫教授が提唱した、"がん哲学外来"。聞き慣れないけれど妙に気になる、現在進行形で発展する新領域の、通常の医療とは異なるユニークな可能性に光を当てるドキュメンタリーが、『がんと生きる 言葉の処方箋』である。

 幾多の生と死を見つめ続けてきた達観したまなざしに、何者にも警戒心を与えぬ柔らかな物腰で、胸に刻みたい至言・名言を囁きかける一方、綾小路きみまろばりの地に脚ついたユーモアセンスで、様々な病状に悩むひとをも笑顔にしてしまう。そんな樋野教授の懐深い人間力が、手術や投薬治療に頼りがちな医学界に、ささやかな一石を投じる。

 彼の理念は、がん患者たちが率直に語り合える場を提供する"メディカル・カフェ"なる試みで、各地にも広がりを見せている。長野県松本市で、ヘルパー業に励み幼稚園児のひとり息子を育てるシングルマザーは、訪問先の闊達な老婦人らに人生を学びつつ乳がんと前向きに対峙し、月に一度のカフェを手探りで運営している。そんな中、東京で妻子と暮らす働き盛りの息子が、がん告知を受けたという女性が現れる。何かしてやりたいのに何もできない無力感を切々と吐露する彼女の胸中は、幼い子の母で健在な両親の愛娘でもあるカフェの主催者や他の参加者の心にもリアルに響く。語り明かされる想いを受け止め、ともに涙を流し、分かち合えれば、それぞれが抱える何かも、少しだけ軽くなる。樋野語録のひとつ"解決はできなくても、解消はできる"が実証される劇的瞬間を目の当たりにし、熱いものが込み上げてくる。

誰にとっても切実で深刻な題材であるものの、一日一日を真摯に生きるひとたちの凛々しい表情や、百薬の長たり得る言葉のもつ力に、自ずと鼓舞される佳篇であった。

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