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こらむ・シネマ百景 第154回 "いくつになっても"

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映画ライター 服部香穂里さんの『こらむ・シネマ百景』

 推定年齢13、4歳のおばあちゃん黒猫だけれど、名前は"チビ"の突然の失踪が、長年連れ添ったある夫婦やその周囲へと投げかける波紋を、丹念な描写を重ねて映し出す『初恋~お父さん、チビがいなくなりました』。相思相愛で一緒になったはずなのに、気づけば結婚50年目にして最大の危機に直面する熟年カップル役に、松竹の倍賞千恵子、日活の藤竜也という、往年の映画スターの夢の共演が実現。自然に歳を重ねることの素晴らしさや切なさを、さりげなくも説得力溢れる佇まいで体現し、充実のキャリアに新たな1ページを加える。さらに、かつて東宝のスターで本作が遺作となった星由里子が、夫婦仲を良くも悪くも引っかき回すキーパーソン役で華を添え、長き女優人生を素敵に締めくくる。昭和の男を地で行く寡黙で頑固な亭主関白の夫を、内助の功で献身的に支えてきた賢妻も、ときめきを失いたくはないし、時には大切な想いを言葉にして伝えて欲しい。出世作となった『とらばいゆ』(02)を彷彿とさせる、末娘役の市川実日子の久方ぶりの将棋姿も懐かしい、贅沢で行き届いたキャスティングの妙も嬉しい豊かな味わいの逸品である。


 退屈な日常に漠たる不安を抱く大学生4人組が、実際に起こした珍妙な事件の顛末を、モデルとなった張本人たちをも登場させ、ユニークな趣向を凝らして綴る『アメリカン・アニマルズ』。大学図書館収蔵の時価12億円相当のお宝をゲットするべく、かなりベタな犯罪映画などをお手本に、誰も絶対に傷つけたくないズブの素人集団が練り上げた犯行計画。たとえば『台風クラブ』(85)の鬱屈した青春を送る中学生にとっての"台風"のような、日々の風向きを変え得るきっかけに"強盗"を選択してしまう、恐ろしいほど大胆なのか単に幼稚で間抜けなのか判別できないイマドキの大学生の思考回路に、とまどいを通り越して驚愕を覚える。時に涙を浮かべながらもカメラ目線で饒舌に語る、演者以上に芝居がかって見えたりもする当人(+α)の姿を目の当たりにするにつけ、世間的には恵まれた部類に属する前途ある若者が、とてつもない代償を払ってまで手に入れたかったものとは何だったのか疑問が渦巻き、共感も理解もし得ない彼らが抱えるどす黒い闇の深さが、重苦しい余韻をもたらす衝撃作だ。


 ひとり息子の自分を溺愛するシングルマザーを"クールな親友"と崇め、母とのマンツーマンの自宅学習を最良と信じきっていた天才少年が、高卒認定試験会場で見かけた義足の美女にひと目惚れしたのを機に、少々遅めの反抗期に目覚める姿を軽妙に描く『リアム16歳、はじめての学校』。個性派コメディエンヌにして演技派でもあるジュディ・グリアが、"痛い女"に陥る寸前すれすれの絶妙のバランスを保ちつつ、自身の苦い過去から学び培った、いささか調子っぱずれな信念に従い邁進する猛母を巧演。何かと複雑な危険や誘惑まみれの世間から我が子を守るべく大奮闘するも、驚きと発見の連続の公立校での新生活を目を輝かせてエンジョイする愛息を横目に、子離れできず置いてきぼりを喰らう親心の寂しさをもリアルに覗かせる。思い当たるフシをぐいぐい突いてくる泣き笑いを誘う鋭敏なユーモアのみならず、ややこしくも愛おしい親子関係の普遍性を考察するデリケートな思慮深さに満ちた、カナダ発の青春映画の快作だ。


 今は亡きロビン・ウィリアムズが熱望したとされる実在の漫画家の半生の映画化を、親交の深かったガス・ヴァン・サント監督がその遺志を継ぎ、ホアキン・フェニックスに白羽の矢を立て実現させた『ドント・ウォーリー』。生後間もなく母に捨てられ、酒に溺れる破綻しきった日々の末に事故に遭い、車椅子生活を余儀なくされた皮肉屋ジョン・キャラハン。そんな彼が、天性のユーモアセンスを発揮し風刺漫画家として再生していく軌跡が、破天荒で自虐的な振る舞いに繊細さを秘めたジョンに惹かれ、様々に影響を及ぼす個性豊かな面々との関わり合いを通し、時間を行き来しつつスケッチされる。変幻自在な演技で魅了したロビンの大きすぎる穴を埋める可能性を感じさせる、名コメディアンでもあるジョナ・ヒルやジャック・ブラックが、いつにも増して陰影に富む表情で新境地を開き、打てば打つほど響き進化するホアキンを強力にサポート。ジョンやロビンが亡くなった後も、志ある映画人が大切につないできたリレーは、人生どん底であれ、憎しみや絶望に逃げずに向き合うことの意義をポジティブに伝え、観る者ひとりひとりの心にも、ささやかな愛や希望を届けてくれるに違いない。


(映画ライター 服部香穂里)

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