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こらむ・シネマ百景 第152回 "ひとり上手と呼ばれて"

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映画ライター 服部香穂里さんの『こらむ・シネマ百景』


 戦死した夫との夢を叶えるべく、小さな海辺の町のボロ屋を思い切って買い取り、書店経営へと乗り出す未亡人の孤軍奮闘を描く『マイ・ブック・ショップ』。メガホンをとるのは、『死ぬまでにしたい10のこと』(03)、『エレジー』(08)など、逆境に直面しても自分の意志で立ち向かう凛とした女性像を、共感を込めて描出してきたイザベル・コイシェ監督。よそ者の新入りに動揺し、閉鎖的な町に不穏な気配が漂う中、ひとり屋敷に引きこもる老紳士に後押しされ、自身の感性で選んだユニークな品揃えの本屋を切り盛りする女店主の華やぎが、生き生きと捉えられていく。実力派女優エミリー・モーティマーと、時を重ねるごとに演技や魅力に磨きのかかるビル・ナイという、『エレジー』のベン・キングズレー&ペネロペ・クルスもびっくりの年の離れた男女が、読書をこよなく好む同志愛を超えて、友情とも恋愛とも異なるかけがえのない関係性を育む様も感動的な、味わい深い逸品だ。


 『ムーンライト』(16)でアカデミー賞作品賞に輝いたバリー・ジェンキンス監督が、70年代のニューヨークのハーレムを舞台に、悲運に引き裂かれそうになりながらも、揺らぐことのないあるカップルの愛のかたちを、瑞々しく映し出す『ビール・ストリートの恋人たち』。差別主義者の白人警官に目をつけられ、無実の罪を着せられた幼なじみとの子を宿す19歳のティッシュは、彼を留置所から出すべく家族や仲間と奔走しながら、女手ひとつで子育てに奮闘する。面会室のガラスで隔てられたふたりに湧き起こる愛情は、歳月を経ても冷めるどころか熱気を増し、理不尽な試練にも負けず、前に進み続けるための活力となる。そんな彼女たちの不屈のポジティブさや子どもの健やかな成長が、悲痛な物語に爽やかな清涼感をもたらし、娘のためにある行動に出る母親のたくましさと脆さとを、内省的な演技で見事に表現したレジーナ・キングが、発表されたばかりのアカデミー賞など数々の演技賞を総なめした。


 やる気みなぎる新米黒人刑事が、エキセントリックな思いつきから、『ミシシッピー・バーニング』(88)などでも描かれた白人至上主義団体"KKK"に潜入捜査を試みる。フィクションであれば、"あり得ね~っ!"と大ブーイングが起きそうな驚愕の実話を、鬼才スパイク・リー監督が緩急自在の演出手腕で、ユーモラスかつスリリングに映画化した『ブラック・クランズマン』。表向きの仮の姿は白人の同僚に任せて、自身は電話のみに専念することで、ふたりでひとりを演じきろうとする大胆極まりない計画。毛色の違う後輩の勢いに巻き込まれ、過激な思想に染まった団員らに同調するふりを見せ続けるうちに、ユダヤ人としてのアイデンティティをも再認識していく相棒刑事を、乗りに乗っているアダム・ドライバーが、深刻ぶりすぎることなく飄々と巧演。誰もが自分を見失い、誰かを貶めることに刹那的な快楽を見出す危険性をはらむ、現在にも通じる排他的な風潮に、力強くNOを突きつける快作だ。


 『勝手にふるえてろ』(17)のヒットも記憶に新しい大九明子監督が、婚期を逃しかけているOLの一念発起を、コミカルなほどリアルに活写する『美人が婚活してみたら』。"高嶺の花"感を醸し出す容姿が災いしてか、気づけば既婚者ばかりが火遊び気分で寄ってくる男運のない32歳のWEBデザイナーが、"死にたい……"と無意識に漏れたつぶやきに我ながらおののき、婚活を本格化させる。少々すっとぼけてはいるが誠実で結婚に意欲的な商社マンと、いかにも恋愛慣れしている歯科医という対照的な男性の間で揺れながら、過去の恋愛や自身の浅はかさをも見つめなおしていくヒロインを、"美人"にしては親しみやすい黒川芽以が茶目っ気たっぷりに好演。既婚だが子どものいない親友役・臼田あさ美との、どちらを選んでも茨の道な"女もつらいよ"な本音を互いに炸裂させるバトルシーンは、毒の効能を知り尽くす大九監督の真骨頂。同世代の女性たちの心の声を黒川がアンニュイかつポップなトーンで代弁するエンディング曲が、幸せのありようは千差万別であることを、しみじみと謳いあげている。


(映画ライター 服部香穂里)

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